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京都の「ゼッケイ」かな、絶景かな… -TOYOMUインタビュー-

サンプリングという表現技法で、Kanye Westのパロディ・アルバム『印象III : なんとなく、パブロ(imaging”The Life of Pablo”)』で京都から世界に衝撃を与えたTOYOMU。そんな彼が京都から送り出す最新作『ZEKKEI』は、どのような状況で生まれたのだろうか。

■サンプリング、オリジナル、その手法

TOYOMUがサンプリングという手法に惹かれたきっかけは90年代の日本語ラップ。ビートを作るだけでなくリリックを書いてラップもするKREVAに憧れ、総合的なヒップホップに惹かれていたそうだが、これまでどういうのを好んでよく聴いてたか考えてみると、音響派的な感じの中でもザラザラした音像が1番好きだ、と語る。手法に関しては、「違う文脈から引用してきて、それがまた新しい文脈になるっていうのが面白いですよね」と言う。

彼が最初に取り組んだサンプリングは、多くのビートメイカーが通ってきたであろういわゆる王道のスタイルの、4小節や8小節の中でチョップして完璧なループを作るというもの。その頃のサンプリングネタは、70年代のディスコとかソウルとかの有名な曲をレコード屋で100円とか200円の安売り箱を探り倒し、安売り箱によくある傾向の渋いけどカッコイイ感じのレコードを多く使ったり、日本版の7インチみたいなのも使っていた、と語る。しかし、彼も20代半ばのネット世代らしく、『WhoSampled』で元ネタとサンプリング後を比べまくっていたため、『WhoSampled』がビートメイクを教えてくれたと言っても過言ではない。『WhoSampled』は今年からSpotifyとの連携も始めたので、ビートの分析ツールとしてだけでなく、単純に音楽を探すために使うのにもかなり便利になった。



サンプリングをして作ったビートを「自身の作品=オリジナル」としてリリースすることは80年代頃のThe Sugarhill Gangのヒットから歴史が重ねられ続け、現代ではヒップホップにおいてもエレクトロニックミュージックにおいても至って普通の出来事となっている(もちろん商用利用する場合は著作権をクリアする必要があるが、リスナーの多くはその点をいちいち気にして聴くわけではないはず)。そういう意味では、90年代のシンセサイザーYAMAHA CS1xとカセットテープを使用し、京都で環境音を採集してサンプリングのネタ自体もTOYOMU自ら作った今作『ZEKKEI』も、これまで彼が自身のBandcampにて発表してきた『印象』シリーズも「オリジナル」と呼べるはずだが、そこの差についてTOYOMUはこう語る。

「足場固めて自分の最高得点を叩き出せるものをきちんと出すのがオリジナルだとしたら、『印象』は実験っていうか……僕にとってはパッと出せるものなんですよ。そんなに難しくして時間をかけたくもないし、ミキシングとかマスタリングも適当か簡単に済ませて、『こんなものができましたよ』って感じでとりあえず出してるので、僕が音楽を作るモードで作ったものからは『印象』はちょっと離れてますね。『印象』は手法だけを1回実現してみる場みたいな感じなんです。『印象V』の京都にしたって、『印象I』の星野源にしたって、Kanye Westにしても、考えは別のところから取ってきてる。だから、その手法を使って自分の中から出てきたものを表現するのがオリジナルだと思います。」



では、TOYOMUはその手法をいかに自身の表現に反映させ、オリジナルへと昇華しているのだろうか。基本的に、サンプリングは「いかなるネタを選ぶか」そして「ネタをいかにして調理するか」ということが重要になる。現在のTOYOMUの場合、「サンプリングする時は一音単位の音色が重要」だと語る。音色とか音像が先行になれば、当然全く関係無いものでも切ったら似たような音に聴こえるし、確かに原型が定かではない電子的ファンクネスや、捻じ曲がったジャジーな進行が、時折音像の中に伺える。

また、彼は手法を重ねる中で、「ループを使わない」ということがルールになっていったそうだ。「サンプリングのループって、僕が演奏してないものがループしていることになりますよね。それがだんだん嫌になってきて。自分でベースとなるものを打ち込んだり、弾いたりすることがやりたくなってきたんですよ。それで初めサンプリングでループを作ってからベースを弾いてたら、そのサンプリングのループさえも自分で作れるようになってきたから、もうサンプリングが必要無くなったんですよね」。そしてそのルールはやがて、『ZEKKEI』を作ることへのモチベーションになったと言う。「今回、作品が流通することになって、今自分が1番挑戦できることで勝負してみたいと思ったんで、他からのサンプリングは無しで作りました。でも実際、自分の作品は、年代とかジャンルとか音楽の種類が色々とあったものをかけ合わせてできていると思うんです。サンプリングをしなくても、『80年代のあのアルバムのあの曲みたいなベースラインを弾いてみよう』みたいにイメージするものはあって、それに音色が合うかどうか弾いてみて合わせてという感じで作業をしていました」。



■フィールドレコーディングと地域性

さらに、改めて自身の曲の中で混ざり合っている異なる文脈の伝統的要素や、過去~現在~未来という長い時系列の中に点在する目印のようなものを俯瞰した時の眺めは、彼自身が住んでいる京都とリンクしたと言い、フィールドレコーディングにも意味が生まれた。「京都を代表して背負って立つという意味でフィールドレコーディングしたわけではなくて、京都に点在する様々な時代を示すものを俯瞰して見た感じで。どちらかと言うと、外国人が初めて京都に来て感じることとかに近いですね。『印象V : そうだ、京都。 (Kyoto Music)』を作った時に、昔David Bowieが京都の東山の方に家を買って住んでたらしいという話を聞いて。それでDavid Bowieは京都の庭のことを“Moss Garden”という曲にしていて、僕もそういう外国人から見た京都みたいなエキゾチックな感じとか、祇園祭とかベタな感じよりかは静かな部分に特に惹かれていたのかなって思います。今、冷静に考えたらですけど」。

音色や音像を求めて楽曲をカットアップする感覚でフィールドレコーディングをしたり、加工作業をしているのかと考えると聴き応えが増してくる。いじってみて面白かった音素材は?とうい質問に、「ウィンドチャイムみたいな金物系のキラキラした音を出してる素材は、ブランコの鎖をガチャガチャ動かした時のなんですよ。遊具を色々ガチャガチャして録りましたね。あと、“Social Grooming Service”の最後の30秒ぐらいに『おーい、行くよー』って子供を呼ぶお父さんの声が入ってるんですけど、自分で制御し切れずに完全にアクシデントとして偶発的に入ってしまったりするのは面白いなと思いますよね」。



■『ZEKKEI』とは

フィールドレコーディングを基にしたオリジナルトラックに、『ZEKKEI』というアルバムタイトル。言葉のインパクトに潜むテーマ性を感じ取りつつも、「絶景」という言葉のポピュラーさが合間って生まれた絶妙な余白に、我々リスナーは高速にも低速にも展開されるリズムと叙情的な音像を受けて、各々の絶景を描くことができる。「本当はタイトルは後から付いてくるものだと思うので、当たり障りのないタイトルを付けたくなくて。『印象』を始める前に『subcon』っていうのを出してるんですけど、その頃からあんまり他と似通ったタイトルにしないでおこうって思い始めたんです。それだったら日本語を使ったら強いなと思ったんですけど、日本語を使うとヴェイパーウェイヴとか、ネットにあるちょっと変な感じだと思われちゃうんですよ。そういうことではなくて、直接住んでる場所の人に伝わるなら、考えて使われてない日本語のタイトルを付けた方が良いなと思ったので、『なんとなく、パブロ』とかになったんです」。

それで、どうして『ZEKKEI』になったのか。 「石川五右衛門が出てくる『楼門五三桐』という歌舞伎に、京都の南禅寺の三門から景色を見て、『絶景かな、絶景かな、……』って見栄を切るシーンがあって。これがメインの理由ではないんですけど、ひとつあります。まず最初から思ってたのは、『離れて見たら』っていう見方が示せるタイトルは付けたかったのと、日本語のタイトルには絶対にしたいなという想いがあったので、それでずっと考え続けてて。『箱庭』みたいな名前をつけたかったんですけど、なんか小さい景色だなと思ってやめたんですね。『離れて見る』っていうのは景色を見ることなので、ひとつひとつの楽曲に景色があるとしたら、その全てを見渡してるわけなので素晴らしい景色っていうことで、五右衛門の言葉を引用しました」。まさか歌舞伎の話が出てくるとは思わなかったが、タイトルにおいても伝統的な文脈を引用元にすることで、不必要なタグ付けを減らすこともできる。「昔のキャッチコピーとかをよく見てますね。だから最近昔の『ミュージックマガジン』をよく買うんですよ。80年代の最初の頃は普通なんですけど、だんだん過剰になってきて、物凄い意味深なキャッチコピーをつけたりしてるのが面白くて。日本に住んでる日本人なら絶対わかる言葉付けがなされてて、それで『タイトルをつけるってこういうことか』って確信したんです」と言われて、ますます『ZEKKEI』という言葉を噛み締めて、ひとつひとつの景色を描きながらEPを聴き直したくなる。



Kanye Westの一件以降ライヴや取材も増え、タイトスケジュールながらも10月末には宇多田ヒカルの『Fantôme』をモチーフに新たな手法『印象VII : 幻の気配』を発表。どうやら次作にも取り掛かっているらしい。最後にアーティストとしてTOYOMUが見てみたい絶景は何かを訪ねてみた。「今は僕はパソコンでしか作ってないですけど、生楽器みたいな空気を通してる音を使って音楽を作りたいんですよ。今まではヒップホップを作ったり、ビートを作ったりっていう考え方だったんですけど、今は完全に音楽を作りたいっていう考えの方が強いので、最終的には何回でもカヴァーされるようなタイプの音楽を作りたいなと思いますね。ピアノでも、鼻歌でも、どこにいても再現できる弾けばすぐにわかるような。簡単に言うと『楽譜を作る』ってことなのかな。人の心と記憶に残るのってメロディーだと思うんですよ。それを究極的に突き詰めて、発表して、何回もカバーされて、そのメロディーを誰もが知ってるっていう状況、その景色は見てみたいですね。それが自分から湧き出てきたものだったら余計に嬉しいですね」。


STAFF

Photo: 草野 庸子(Yoko Kusano)
Hair/Make: 木村 一真(Kazuma Kimura)darlin.
Writer: 松原 裕海(Hiromi Matsubara)
Editor: 廣田 利佳(Licaxxx)



TOYOMU『ZEKKEI』

<収録曲>
01. Atrium Jōbō
02. Incline
03. Mound Meidou
04. The Palace
05. Social Grooming Service
TOYOMU
http://toyomu.jp